コラム「一休さんと一休み」
11. 「ためらわれた踏み台」
私達葬儀屋はいつも自然死の方の葬儀を施行するわけではありません。事故で亡くなった方や、自殺された方の葬儀を施行することも当然あります。そんな方の葬儀の時はお身内も非常にナーバスになっていますので、普段以上に気を使います。
私がまだ明進社に勤めたてのころの話です。お年寄りの一人暮しで自殺された方の葬儀を施行させていただいたことがあります。部屋の中での首吊り自殺でした。ご連絡をいただいてすぐに、ご自宅に「枕飾り」を持っていきました。故人様はすでに布団に寝かされていましたが、お年寄りの一人暮しとあって部屋の中は荒れていました。私達は三人がかりで部屋の掃除をしました。一時間ほどで部屋の中はきれいになりました。しかし 壁はしみだらけで、置いてあるタンスにはほこりが溜まっていました。そこで、それを隠すように幕を張ることになりました。
「直ちゃん！ ぐるり幕を張ってやってくれ」とベテランの社員に言われ「はい」と元気よく答えて車に幕を取りに行きました。ところがです。幕はありましたが、幕を張るために使う脚立がありません。困った場合は近くにあるもので代用するのが葬儀屋の鉄則です。（勝手に作ったものですが…）とにかく、ベテラン社員達を待たすわけにはいかないので近くに脚立の代わりになるものを探しました。部屋の中を見まわすと、そこにちょうどよい高さの踏み台がありました。私はそれを使って幕を張り終えました。
会社に帰る車の中で、ベテランの社員が私に言いました。
「直ちゃん。あの踏み台は仏様が、だいぶためらって上ったものじゃないの？あんなに簡単に使っちゃまずいよ。」
私は、その言葉のあとしばらく震えていましたが、ベテラン社員はその横で大声で笑っていました。
金子直裕
